1万円タブレットの“新・心臓部” 「Rockchip RK3562」のAntutuや搭載端末を徹底調査

「1万円台のタブレットなんて、安かれ悪かれでしょ」
正直、僕もそう思ってました。Amazonの奥地で叩き売られているそれらは、長らく「枯れた技術の墓場」だったからです。
でも最近、その常識をひっくり返す奇妙なヤツが現れました。「Rockchip RK3562」です。
こいつ、スペック表だけ見ると完全に時代遅れ。でも中身をよく見ると、「コストを削りつつ、どこまで快適にできるか?」という難題に、執念のような工夫で挑んでいることがわかるんです。
これは単なる「安物」なのか、それとも計算され尽くした「戦略的な名機」なのか?
あえて今、この”枯れた石”を解剖してみましょう。「安いからなんとなく買う」を卒業して、「中身を知ってあえて選ぶ」。そんな視点、ちょっと手に入れてみませんか?
Rockchip RK3562の特徴
RK3562を理解するためには、まずその中身を知る必要があります。なぜ今、古い技術とされるCortex-A53が選ばれたのか。そして、なぜそれが「遅い」とは言い切れない独自の立ち位置を築けたのでしょうか。
Cortex-A53
(最大2.0GHz)
設計は古いが2.0GHz動作。
普段使いには十分。
4K VP9 / H.265
デコーダー
ゲームは苦手だが、
4K動画再生はスムーズ。
Android 14 /
Wi-Fi 6 対応
低価格ながら、
最新OSとWi-Fi 6に対応。
CPUユニット │ Cortex-A53の「最終形態」としての2.0GHz

RK3562の頭脳となるCPUは、ARM Cortex-A53のクアッドコア構成です。スマートフォンの黎明期から中期を支えた名作コアですが、同時に「過去の技術」でもあります。
通常の廉価版タブレットに採用されるA53コアは、発熱と消費電力を抑えるために1.5GHzから1.6GHz程度に抑えられるのが通例でした。しかし、RK3562は違います。最大 2.0GHzという、このアーキテクチャが許容するほぼ上限値に近い設定で動作します。
製造プロセスの成熟を背景に、古いコアに「ドーピング」を施したようなものです。1.5GHz駆動と比較して約33%のクロック向上は、アプリの起動速度やWebページの表示といった、基本的な動作のレスポンス向上として体感できます。
なぜ新しい「Cortex-A55」ではないのか?
競合他社や上位モデルでは、より新しいCortex-A55が採用されています。それにもかかわらず、なぜRK3562はA53を採用したのでしょうか。
その答えは、冷徹なまでのコスト効率への追求にあります。A53はシリコン上のサイズが小さく、製造コストが安く済みます。RK3562のミッションは「世界で最も安価な実用タブレットを作ること」。そのために、あえて枯れた技術を選択し、その代わりにクロックを引き上げることで性能差を埋めるという、力技のアプローチが採られたのです。
GPUユニット │ Mali-G52 2EEによるグラフィックス革命
CPUが保守的な選択であるのに対し、グラフィック描画を担うGPUには、このクラスとしては贅沢なARM Mali-G52 2EEが搭載されています。
「2EE」とは、2つの実行エンジンを持つことを意味します。これにより、従来の格安タブレットに使われていたGPUと比較して処理能力が向上しています。最近のAndroid OSは画面の表示自体にGPUのパワーを多く使うため、この強化は操作の滑らかさに直結します。通知バーを下ろした時のぼかし効果や、アプリを切り替える時のアニメーションが「意外とスムーズ」に感じるのは、このGPUのおかげです。
NPU │ エッジAI時代の最低保証「1 TOPS」
RK3562のスペックにおいて異彩を放つのが1 TOPS NPUの存在です。これはAI処理専用の回路で、1万円以下のデバイスに搭載されること自体が異例です。
最新スマホに比べれば微々たる数値ですが、顔認識によるロック解除や、カメラの画質調整、システムリソースの最適化などに使われ、CPUの負担を減らす役割を果たしています。
動画再生 │ 4Kデコードの実力
タブレットの主要用途である「動画視聴」。RK3562はここに強力な専用回路を持っています。YouTubeなどで標準的に使われるVP9コーデックや、H.265 (HEVC)のハードウェアデコードに対応しており、最大で4K画質(30fps)まで再生可能です。
CPUに負荷をかけずに動画を再生できるため、バッテリー消費を抑えながら高画質な映像を楽しめます。ただし、4Kの60fps動画ではコマ落ちする可能性がある点には注意が必要ですが、この価格帯のタブレットの画面解像度を考えれば十分すぎる性能です。
Antutuベンチマーク徹底分析
Antutu Benchmark V10 │ 38万点という「幻影」
一部の製品(UMIDIGI G1 Tab Kidsなど)の広告でAntutu Score 383,300という数値を見かけることがありますが、これには注意が必要です。この数値は、2〜3万円クラスのスマートフォンに匹敵するものであり、RK3562の構成で出すことは物理的に不可能です。
他の実機レビューや信頼できるデータに基づくRK3562の正しいAntutu V10スコアは、約140,000点~150,000点です。38万点という数字は購入判断の材料としては無視すべきです。
14万点というスコアの意味
では、14万点は「低い」のでしょうか? 歴史的な文脈で見ると、これは大きな進歩です。
かつての格安タブレット(RK3326など)
スコアは7万〜8万点程度。動作が重く、ブラウジングもストレスが溜まるレベルでした。
RK3562搭載機
スコアは14万〜15万点。実用域の下限に到達しました。
前世代と比較して約2倍の性能向上を果たしています。「アプリを開くたびにフリーズしたかと思うほど待たされる」レベルから、「ワンテンポ遅れるが、確実に動作する」レベルへと進化しました。この「使えるか使えないか」の境界線を越えた点こそが、RK3562の真価です。
ストレージ性能の傾向
データの読み書き速度に関しては、読み込みは速いが、書き込みは遅いという傾向があります。 アプリの起動(読み込み)は比較的スムーズですが、アプリのインストールやアップデート(書き込み)には時間がかかります。この特性を理解して使うことが、ストレスを溜めないコツです。
ライバル比較 vs エントリーSoC
現在市場で競合している2つの主要チップ、Unisoc T606およびAllwinner A523との比較を行います。
vs Unisoc T606 │ 超えられない「ビッグコア」の壁
現在の中華タブレット市場で最も評価が高いエントリーチップがUnisoc T606です。
| Unisoc T606 | RK3562 |
|---|---|
| 高性能コア(Cortex-A75)を2つ搭載 | 省電力コア(Cortex-A53)のみ搭載 |
勝負は明白です。Webブラウジングや重いPDFの表示などにおいて、T606はRK3562を圧倒します。もし、欲しい機種の価格差が1,000円〜2,000円程度であれば、迷わずT606搭載機を選ぶべきです。RK3562が選択肢になるのは、それよりもさらに圧倒的に安い場合に限られます。
vs Allwinner A523 │ 泥仕合のライバル関係
より直接的なライバルとなるのがAllwinner A523です。
| Allwinner A523 | Rockchip RK3562 |
|---|---|
| 8コア(1.8GHz)構成で、マルチタスクに強い設計 | 4コア(2.0GHz)構成で、瞬発力に強い設計 |
「アプリを一つだけ開いて使う」場面では、クロック周波数が高いRK3562の方がキビキビと感じることがあります。一方、裏でアプリを更新しながらブラウジングをするような「ながら作業」では、8コアを持つA523が粘り強さを見せます。 瞬発力のRK3562か、マルチタスクのA523か。ここは好みが分かれるポイントです。
ゲーミング適性分析
「子供用のタブレットとして、ゲームは動くのか?」 特に人気の『Roblox』と『Minecraft』の動作状況について解説します。
Roblox │ 設定とワールド選びが重要
Robloxは遊ぶ「ワールド(ゲーム)」によって重さが全く異なります。
軽量ワールドなら「遊べる」
Obby(アスレチック)やTycoon系、自然災害サバイバルなどの軽量なワールドであれば、RK3562でも遊べるレベルで動作します。フレームレートは30fps〜40fps程度で、多少のカクつきはありますがプレイ可能です。
重量級ワールドは「厳しい」
一方で、Brookhaven RPやBlox Fruitsといった重量級ワールドでは厳しいと言わざるを得ません。多数のプレイヤーや派手なエフェクトが重なると、画面がカクカクになり、操作も遅れます。
快適に遊ぶための設定
RK3562でRobloxを遊ぶ際は、以下の設定が必須です。
- グラフィックモードを「手動(Manual)」にする。
- 画質設定を最低(1〜2目盛り)にする。
- 他のアプリを終了させる。
Minecraft(統合版) │ チャンク設定次第
Minecraftも設定次第で遊べます。
描画距離を下げよう
デフォルト設定では重くなる可能性がありますが、描画距離(チャンク表示)を6〜8チャンク程度に下げることで、サバイバルモードでの建築や冒険は十分楽しめます。
クリエイティブモードでの注意
TNTを大量に爆発させたり、複雑なレッドストーン回路を組んだりすると処理落ちします。あくまで「普通に遊ぶ」範囲内での性能です。
原神・スターレイル は不可能。
現代の重量級3DアクションRPGである『原神』や『崩壊:スターレイル』などは、プレイ不可能です。インストール画面に進むことすらストレスになりますし、仮に起動しても紙芝居状態になります。これらのゲームを目的とする場合は、予算を上げて上位のタブレットを検討してください。
動画視聴と「Widevine L1」の壁
タブレットを動画専用機として使う場合、画質は非常に重要です。ここで「Widevine L1」という言葉がキーワードになります。
Widevine L1とは?
動画配信サービスの著作権保護機能のレベルのことです。
| L1(レベル1) | L3(レベル3) |
|---|---|
| 高画質(HD画質以上)で再生可能 | 標準画質(SD画質)に制限 |
L3は10インチの大画面でSD画質の動画を見ると、映像がぼやけて見えます。高画質で楽しむにはL1対応が必須です。
実際の対応状況と注意点
RK3562搭載機の中には「L1対応」を謳う製品が多いですが、落とし穴があります。
Netflixの壁
Netflixは独自の認証システムを持っているため、「L1対応」のタブレットであっても、Netflixだけは低画質(SD)でしか再生できないケースが多々あります。Amazon Prime VideoやYouTubeは高画質で見られることが多いですが、Netflixユーザーは注意が必要です。
ディスプレイ解像度の罠
また、多くのRK3562搭載機は画面解像度が**HD(1280×800)**です。フルHD(1920×1080)ではないため、そもそも画面のきめ細かさに限界があります。電子書籍で細かい文字を読む際は、少し拡大しないと潰れて見えることがあります。
代表的なRK3562搭載デバイス
UMIDIGI G1 Tab シリーズ
RK3562搭載機の代表格です。標準モデルの「G1 Tab」に加え、頑丈なケースが付属した子供向けの「G1 Tab Kids」、8インチサイズの「G1 Tab Mini」などが展開されています。デザインが比較的洗練されており、安っぽさを感じさせない工夫がされています。
DOOGEE U10 シリーズ
「Wi-Fi 6対応」を明確に打ち出しているのが特徴です。ルーターが対応していれば、混雑した電波環境でも動画が止まりにくくなります。また、Proモデルなどではストレージ容量を増やしたバージョンも存在します。
Teclast P85T
8インチクラスのタブレットです。初期モデルにはRK3562が搭載されていましたが、最近はAllwinner A523搭載版に切り替わりつつあるなど、市場在庫が混在している可能性があります。金属ボディを採用しており、質感が高いのが魅力です。
産業用途とエッジコンピューティング
RK3562の活躍の場は、安価なタブレットだけではありません。実は産業用グレードの「RK3562J」という兄弟チップが存在します。
このチップは、マイナス40度からプラス85度という過酷な温度環境でも動作するように設計されています。工場の操作パネルや屋外のデジタル看板などに使われています。
私たちが手にするタブレットに入っているのは通常版ですが、その設計の根底には産業用途にも耐える堅牢さがあります。これが、「安いけれど意外と壊れにくい」「長時間動かしても安定している」という評価につながっているのかもしれません。
第8章 │ 結論 RK3562は「買い」なのか?
最後に、このチップを搭載したタブレットは「買い」なのでしょうか。 すべての人にお勧めできるわけではありませんが、明確な用途があれば賢い買い物になります。
こんな人におすすめ(推奨ユーザー)
「壊れること」を前提とする用途
小さな子供用(YouTube Kids専用)、キッチンでのレシピ表示用、お風呂用など。「iPadを使うにはリスクが高すぎる」場所で使うのに最適です。
シングルタスク専用機
「寝る前に電子書籍を読むだけ」「車で動画を流すだけ」といった、用途を一つに絞った使い方。アプリを行き来しなければ、2.0GHzのパワーで意外なほど快適に使えます。
レトロゲーム機として
PS1くらいまでのレトロゲームなら快適に動きます。エミュレータ専用機として割り切るのも面白い使い方です。
こんな人は避けるべき(非推奨ユーザー)
メイン機として使いたい人
スマホと同じ感覚でSNSやブラウジングをサクサク行いたい人は、ストレスが溜まります。
3Dゲームをしたい人
原神などは動きません。
画面の綺麗さにこだわる人
HD画質では物足りなさを感じるでしょう。
まとめ
RK3562は、かつて「安かろう悪かろう」だった1万円以下のタブレットを、「制限はあるが確実に動く実用品」へと引き上げました。
Wi-Fi 6対応や最新Android OSへの対応など、数年前なら上位機種の特権だった機能が、いまや数千円〜1万円の端末で手に入ります。あなたが次にAmazonで激安タブレットを見かけたとき、スペック表に「RK3562」の文字を見つけたら、そこにはコストと性能の狭間で戦うエンジニアたちの執念と、確かな実用性が詰まっていることを思い出してください。


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